奈良にてガストロノミーツーリズム開催 WIG名誉会員ルシア・フレイタス登壇
去る2022年12月12日から4日間、奈良県にて国連世界観光機構(UNWTO)がバスククリナリーセンター(BCC)と提携しガストロノミーツーリズム国際会議が開催されました。スペインからはWIG名誉会員であり、ガリシア州サンチアゴ・デ・コンポステーラの一つ星レストラン「ア・ラタフォナ デ ルシア フレイタス」および「ルメ」を経営するシェフ、ルシア・フレイタスが登壇。この国際会議は国内外から食と観光業界の専門家、事業主や行政機関が集まり、ガストロノミーと観光の密接な繋がりとよりサステナブルな発展をディスカッションする好機。彼女のメッセージは関係者に向けてダイレクトに響きます。
ルシアシェフが登壇したのは「女性と若者、才能にスポットライトを当てる」と題されたラウンドテーブル。世界で活躍する女性シェフのほか、次世代の観光産業のリーダーとなるキーパーソン計6名を交えたディスカッションです。若者と女性のエンパワーメントへの流れを感じている、まさにその現場の声が集まる貴重な機会となりました。
ルシアのメッセージは常に明確です。
「若者が飲食ホテル業界でずっと働いていたいと思うためには、現実の働き方を変える必要があります。サステナブルはいまや、レストランでコンポストを作るだけの言葉ではありません。
チーム自体が、彼らの生活自体がサステナブルでなくては。公私の生活が保てること。パンデミック後の、人々のものの味方が変わったことも意識すること。経営者は若者と同様、女性の雇用についても意識変革が必要です。」
2022年アジア最優秀女性シェフのタイトルを持つ庄司夏子シェフの言葉も印象的でした。
「私の店ではスタッフだけでなく、スタッフの家族やバックグラウンドまで気を使っています。彼らの生活が成り立つようにすることが必要。違うジャンルの業界とのコラボで、レストランを盛り上げてゆくこともひとつ、経営としての要でしょう。若い人には自分のビジネスモデルはやりやすいと思います。」
モデレーターを務めたBCCのホセ・マリ・アイセガによると、BCCでは全生徒の半数が女性。調理だけでなく飲食全般、食に関する研究職でもスペインでは女性の進出が進んでいます。そして、スピーカーの中でもポジティブな未来を体現していた、フィリピンのマリア・マルガリータシェフの言葉には勇気づけられるものがありました。フィリピンの料理学校では女性のほうが多数派で、厨房や飲食店でも男女比が半々だと。それでも更に必要なのは女性の管理職を増やすことだと、マリアシェフは考えます。
ルシアシェフは今回、若者と女性の雇用について、一歩踏み込んだイメージを語りました。
「女性と若者の雇用については、私は楽観的ではあるけれど、批判精神を持っています。かつての厨房はヒエラルキー、軍隊的でした。今の若者を連れてくるためには、彼らの場所をつくり道具を与えること。彼らがレストランの一員で重要だと感じさせる運営が必要なのです。チーフが若者にリスペクトを持つこと、客の前でも彼らが尊厳ある存在だということをチーフが認識することです。
スペインの飲食では常に「お客様が正しい」というような言い方があります。それは正しいようで間違っているとも私には思えるのです。
お客さまは食事のバックグラウンドである厨房で、従業員が正当な尊厳ある働き方をした上で料理を作り出しているということを知るべきです。
私は母であり、家族があります。同じように従業員にも店以外の生活と人生がある。それぞれの人生のなかで、適切な就労時間を設定することで彼らに尊厳を与えてゆくのも私の仕事だと考えます。それ故、入念に彼らの労働時間や働く形態を再編成しています。彼らが厨房の外でも中でも幸せで居てほしいと願っています。女性でも若者でも彼らが重要なチームの一員であるということを意識させる運営が必須なのです」。
彼女の熱弁は他の参加者も圧倒していました。
「ガストロノミーの世界ではまだ男女差があるのは明らかです。女性は常に少数派。変化は緩やかだから変化を待つのではなく、変化を作ってゆくことが大事で、女性のオーナシェフがもっとできることが必要だと私は考えていますし、トップシェフを女性にすることも必要でしょう。
厨房だけでなく、素材を提供する第一次産業の女性同士がネットワークを作り、お互いに助けてゆくこともガリシアでは始めています。
10年15年でもっと、女性シェフのその名前を掲げたレストランが増えてくれることを願っています。ミシェランの星がつくような店で、女性を多く雇用することも後継の女性にセキュリティを与えるという意味で重要でしょう。
私達は止まっていることはできません。変化を作り出す事が必要なのです。
変化には周囲の支援が必須です。私の場合はレストランだけでなく漁業や農業の第一次産業に従事する女性、食器の女性職人などと団結しています。それぞれがレストランという同じ舞台に一緒に出ている気持ちです。
10年後にはもっと女性が増えているだろうと実感します。女性が、性差が理由でキャリアを進めないということがなくなっている未来を信じたいです」。
スペイン国内の女性シェフの中でも、ことに顕著に女性の権利や男女平等を発言している彼女ですが、ガリシアという地方都市から世界へ向けての発言であるということも大きな意味があるでしょう。2023年もルシアシェフのアグレッシブな改革は続きます。
文:小林由季
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